Making of the World
作品世界の創作に影響を与えたものたち

人類の進化と多様性

種内間の多様性に溢れた人類

今や地球上には、70億を超す人々が暮らし、さまざまな人種、民族が存在しています。しかし人類種としては、皆同じホモ・サピエンス。私たちはなぜ同じ人類にもかかわらず、ここまで多様性にあふれているのでしょうか。
霊長類の中で、我々ヒトに最も近い種とされているのはチンパンジーですが、その遺伝子の差は僅か1.2%しかありません。700万年ほど前に共通の祖先と枝分かれしたものの、遺伝子としてはほとんど差がないのです。つまり、姿や性質を決めるのは遺伝子だけではないようです。

「エピジェネティクス」という新しい生命観

そこで近年考えられているのが「エピジェネティクス」という生命観です。 これは例えば遺伝子A・B・Cがあっても、その遺伝子たちが働くタイミング、順番、ボリュームによって、外見や性質が変わってくるというものです。 わかりやすい例で言えば、同じ楽譜でも奏でる人によって全く違う音楽になるといったところです。

「家畜化」が多様性を生んだ

人はオオカミを家畜化してイヌをつくりましたが、その品種はチワワからセントバーナードに至るまで実に多様です。同様のことが旧ソ連で行われたギンギツネを家畜化する実験でも見られ、短期間で様々な形質のこどもが生まれました。これもエピジェネティックな変化によるものです。

また、家畜化とは幼稚化することでもあります。子どもの期間が長くなれば、警戒心も少なく好奇心に満ち、探索行動が長期化します。ヒトはチンパンジーに比べて大人になるまでに時間がかかりますが、それが自らの文化や文明を発展させ、世界中に拡散し繁栄することにつながりました。

現在世界中に様々な外見をした人種や民族がいるのも、チンパンジーからヒトへ進化する過程で自ら幼稚化、家畜化し、多様性にあふれやすくなった結果だと言えるでしょう。

参考文献

  • 福岡伸一(2011)『動的平衡2:生命は自由になれるのか』木楽舎
  • アリス・ロバーツ(2012)『人類の進化 大図鑑』馬場悠男監修, 河出書房新社
  • 福岡伸一 ほか(出演)、2011、「オオカミはこうしてイヌになった」『いのちドラマチックスペシャル』BSプレミアム